テクニック

過去細胞凍結の手法として主流だった緩慢凍結法は、凍結保護物質に浸漬した細胞を一定の温度まで徐々に冷却し、細胞外に発生した氷晶による浸透圧差で細胞内を脱水し凍結するもので、これにはプログラムフリーザーと呼ばれる専用の機器と、長時間の作業が必要とされていました。 これに比べガラス化凍結法は特別な機器を必要とせず、また作業時間が極めて短いため現在一般的に普及しています。

テクニック

過去細胞凍結の手法として主流だった緩慢凍結法は、凍結保護物質に浸漬した細胞を一定の温度まで徐々に冷却し、細胞外に発生した氷晶による浸透圧差で細胞内を脱水し凍結するもので、これにはプログラムフリーザーと呼ばれる専用の機器と、長時間の作業が必要とされていました。
これに比べガラス化凍結法は特別な機器を必要とせず、また作業時間が極めて短いため現在一般的に普及しています。

しかしながら、その操作には作業者の正確かつ緻密な技術が要求され、従来、ガラス化凍結の各ステップは秒単位で決められた手順に沿って行われていました。
クライオテック法は、この経験や熟練を必要とする操作によって、僅かながらでも人為的な結果の差異や、胚培養士の皆様への心理的ストレスが発生することを懸念し、「誰が行っても簡単に、同じ結果を出せる」技術を提供すべく改良を重ねました。

・各試薬の改良

ガラス化凍結に用いられる凍結保護物質は、細胞を氷晶から守ってくれる効果と同時に、細胞への毒性を持つことが知られています。そのため従来は、この毒性から少しでも細胞を守るために、作業者はタイマーに急き立てられながら操作を行っていました。クライオテック法は各試薬の改良によって凍結保護物質の細胞毒性を低減し、各操作の時間制限を緩和しました。

・デバイスの改良

クライオテック法が各ステップに厳しい時間制限を持たず、再現性の高い技術を提供するため試薬同様にこだわったのは、デバイス(容器)のデザインです。まず従来法では存在しなかったガラス化凍結及び融解専用のプレートを開発し、簡便性向上と浸透圧変化の緩慢化による細胞保護性能の向上を実現しました。またクライオテック(ストロー)は操作性と安全性を重視したデザインを追求し、記名しやすく持ちやすい四角柱の形状にしました。

・VSステップの可視化

従来、特に作業者間の差異が生じたステップのひとつがVSでの操作です。細胞内のES(平衡液)がVS(ガラス化液)に置き換わったことを見極め、液体窒素での冷却に移ることが大変重要ですが、その判断基準はあいまいで、また前述のように厳しい時間制限も存在しました。クライオテック法では各試薬に適切な比重を持たせ、「誰が見ても」ESからVSへの置換が明らかであるよう設計致しました。

・凍結時のドロップ最小化脱却

液体窒素投入時の冷却速度を上げ、より氷晶形成のリスクを低減するために、卵子もしくは胚は従来最小限のVS液の中に入れられていました。この操作はシート上に置いたサンプル周囲のVS液を吸引するというもので、冷却速度を上げる一方、細胞へ過度な表面張力を与え、物理的なダメージを負わせる原因となっていました。クライオテック法は試薬及びデバイスの改良によってこの操作を不要化し、より安全なガラス化を実現しています。

凍結

未熟卵子を凍結することはできますか?
はい、GVやMⅠであっても同じ手順で凍結することができます。
拡張胚盤胞はどのように凍結すればよいですか?
拡張胚盤胞(直径≥220µm)の場合は、凍結開始前にPre-shrinkを行ってください。DS:WS=2:3の割合で液を混合し、高張液を作成してください。胚盤胞を浸漬させますと浸透圧差で胚盤胞が収縮します。直径が220µm未満となりましたら、ESの行程へお進み頂けます。その後の行程は同一です。Pre-shrinkを行って収縮させた胚盤胞は、最大時間の15分まで待ってからVSへ移行してください。
バイオプシーに使用した後の胚盤胞も凍結できますか?
通常と全く同じ手順で凍結保存が可能です。収縮した状態からの凍結などでESでの体積回復の判断が難しい場合は、最大浸漬時間の15分まで待ってからVSへお進みください。
ESに時間制限はありますか?
最大時間のみ決められており、卵子と胚盤胞は15分、分割期胚は12分です。最小時間はありませんので、最大時間未満であっても、卵子/胚の体積が凍結開始前と同じサイズに戻った時点でVSにお進みいただけます。一方、体積が完全に回復していない場合であっても、最大時間を迎えた場合には平衡は十分完了しておりますのでVSへお進みください。
VS1/VS2に時間制限はありますか?
ございません。VS1では卵子/胚の浮上停止確認ができた時点でVS2へ進みます。VS2では卵子/胚の再収縮確認ができた時点でローディングへ進みます。いずれのステップでも時間を気にする必要がありませんので、卵子/胚の観察を重視なさってください。
複数の卵子を凍結しようとした際、ESやVSで卵子の動きにばらつきがでてくると思いますが、個々に合わせて作業した方がいいでしょうか?
別々のクライオテックにのせて凍結できるのであれば、それぞれに合わせて作業する方が望ましいです。ただし同じクライオテック上に凍結する場合や、分けて作業した場合に後になる卵子/胚の操作が著しく遅くなってしまうのであれば、回復の遅い卵子/胚に合わせて一斉に作業してください。
ローディング時、ドロップの適切なサイズはどれくらいですか?
ドロップ直径を300µm -500µmとなるようにしてください。クライオテックのシート横幅は1400µmですので、およそその三分の一程度が目安です。
複数の卵子/胚を同じシートにローディングする際はどのようにすればよいですか?
必ず1つのドロップには1個の卵子/胚となるようにしてください。同じドロップに複数個入ってしまった場合は、必ず卵子/胚を取り直し、違うドロップをシートの別の場所に作ってください。
ドロップサイズが小さい/大きいと何がいけないのでしょうか?
ドロップサイズが小さすぎると、卵子/胚に表面張力によるダメージが発生します。また大きすぎると冷却及び加温速度が低下し、氷晶形成やドロップへの亀裂などが発生する可能性があります。より安全なガラス化凍結のため、ドロップサイズをお守りください。
カバーキャップをきちんと締めるコツはありますか?
カバーキャップを閉める際、カバーキャップがよく冷えていること、そして中から気泡が出てこないことを必ず確認してください。キャップは少なくとも15秒は冷やしてください。気泡が残っている場合、その圧によりカバーキャップが取れやすくなります。またセッシでカバーキャップをつけた後、指を使ってきつく閉めなおすことで取れにくくすることができます。

融解

何故TSを37℃で加温するのですか?
加温速度を最大とし、氷晶形成温度を素早く通過するため、TSの温度を可能な限り高温にする必要があります。卵子/胚に用いられる最大の温度が37℃であるため、TSは使用直前まで37℃に加温してお使いいただきます。
CO2インキュベーターでTSを温めても構いませんか?
TSにはHEPESが添加されているため、CO2の入っていないインキュベーターや保温庫を推奨しております。CO2インキュベーターを使用される際は、TSのバイアルをきつくしめなおし、パラフィルムなどを巻いてから入れてください。ご心配な場合は、バイアルごとさらに大きめのコニカルチューブなどに入れ、その蓋をしてからご準備いただければ安全です。
胚移植が突然キャンセルになりました。温めてしまったTSはもう使えないのでしょうか?
未使用のTSは問題なくお使いいただけます。加温を中止し、冷蔵庫で再度保管してください。
TSに浸けた際、卵子がすぐにシートから離れました。1分経過していないですが、クライオテックだけ抜いてもいいですか?
クライオテックを抜いてしまうと液流が発生し、TSの温度がより早く下がってしまいます。またTSに浸けた瞬間は卵子/胚にとって最もストレスのかかる時間ですので、それ以上のストレスを与えないよう、微動だにせず待つ必要があります。ですので1分間は、卵子/胚が浮上してきてもクライオテックは動かさず、TS中に保持してください。
融解時、クライオテックから卵子/胚が剥がれない場合はどうすればよいですか?
TS浸漬後1分経過しても卵子/胚がシートに付着している場合は、クライオテックを水平に緩やかに振り、卵子/胚が自然に剥がれ落ちるのを待ってください。それでも取れない場合は、TSをゆっくりと吹き掛けるなどして剥がします。ピペットで直接取ってしまうとダメージを与える可能性がありますので、できるだけ上記の方法をお試しいただくことを推奨致します。
DSに入れた際、胚が勝手に浮き上がってくることがあります。底に戻した方がよいのですか?
まれに胚がDS内を浮上してくることがございます。胚内外の比重の変動によるもので、正常な胚の動作です。特にウェル底に入れなおしていただく必要はございません。
TS→DS、DS→WS1で前液を3mm分先に出した後に卵子/胚を入れますが、その後にさらに上から前液を振りかける必要はありますか?
必要な量として3mm分としていますので、上からさらに追加する必要はありません。
融解時、胚の回復が見えたら時間をショートカットしてもいいですか?
融解の各ステップTS:1分、DS:3分、WS1:5分は最低その時間浸漬しておいていただきたい時間です。既に胚の回復が見られていても、それぞれの設定時間内は必ず各試薬に浸漬してください。
卵子を融解してからICSIまでの適切な培養時間はありますか?
融解後2時間の培養を推奨しております。融解後に紡錘体の確認ができる場合には、この限りではありません。
融解後、胚移植までの時間はどれくらいが最適ですか?
弊社では体外よりも体内の方が胚に適した環境であると考え、生存確認ができ次第少しでも早く移植していただくことを推奨しております。通常、融解後1時間程度の培養後とお伝えしておりますが、最終的にはクリニック様のご方針にお従いください。

その他

使用されている凍結保護物質は何ですか?
細胞透過性凍結保護物質としてはエチレングリコールとDMSO、細胞膜非透過性凍結保護物質としてはトレハロースとヒドロキシプロピルセルロース(HPC)が添加されております。
顕微鏡やクリーンベンチのヒートプレートは使用するべきですか?
ヒートプレートは使用しないでください。試薬の温度が上がることで化学反応も加速します。凍結保護物質の毒性を誘起することにもなりますので、温度管理にはご注意ください。
使用期限はどれくらいですか?
凍結・融解とも試薬は冷蔵保存の場合、製造から1年、常温保存の場合は3か月です。プラスチック製品(プレート及びクライオテック)は製造から2年です。
他社製品で凍結された卵子/胚をクライオテック製品で融解することはできますか?
お使いいただけますが、全工程をクライオテック製品で行っていただいた場合と同等の結果の保証は致しかねます。
クローズド法で凍結したものをクライオテックで融解できますか?
クローズド法であっても融解時の手順は基本的にオープン法と変わりがないため、クライオテック法をご使用いただけます。ただし、全工程をクライオテック製品で行っていただいた場合と同等の結果の保証は致しかねます。
試薬を分注する際、液面に気泡ができてしまいました。取り除くべきですか?
気泡はできましてもその後自然に消滅します。取り除こうとすると液量が変わってしまいますので、気泡ができましてもそのままにしていただいて結構です。
顕微鏡の倍率はいくつで作業すべきですか?
胚の移動など全般の作業には、各ウェルの円周が顕微鏡の視野円周と重なる程度(x12-15)、卵子/胚の観察時を要するステップではお使いの実体顕微鏡の最大強拡(X45-55程度)を推奨しております。
各ステップごとに前液の吸引量(卵子/胚の後に3mm分など)が決められていますが、ピペット内径が一定していない場合はどうすればよいですか?
試薬の吸引量は必要最低量を目安にしておりますので、ピペットの内径差にかかわらず目安通りに吸引していただいて結構です。適切なサイズの内径(卵子/分割期胚=140-150µm、胚盤胞=200-250µm)を想定しておりますので、過度に大きな内径のピペットを使用なさいませんようご注意ください。
作業中、プレートの蓋はしめるべきですか?
分注する試薬の液量は少ないもので300µlあり、蓋を外して継続使用しても問題ない量となっていますので、開放した状態での作業を推奨しております。特に融解時におきましては、前液と現液の経時的混和による緩慢な希釈が重要となりますので、蓋の開閉による振動が悪影響を及ぼす可能性がございます。
クライオテックだけ、またはプレートだけなど、単品で購入することはできますか?
全ての製品を個別にご購入いただくことが可能です。

理想のガラス化を目指して